1度目の春は、王都を追放された失意で八つ当たりをしてばかりいた。
2度目の春は、村人たちと協力しながら農業と農村の暮らしへの学びを深めた。彼らのありようをより深く知り、最適な作物を共に考え、暮らしに足りないものを観察して補うように行動した。農閑期の学校開催などもその1つである。そして今。3度目の春、エゼルとシャーロットはシリト村を旅立とうとしていた。
2人とも悩んだ末の決断だった。けれども農民たちのより豊かな生活、より幸せな暮らしを幅広く実現するために、王都へ戻って政治に携わる決意をしたのだ。シリト村を始めとした不正な税の搾取を告発したことで、エゼルの名声は多少の挽回をしていた。かつての「無能王太子」から、少しは見る目のある若者に変わった。
それをもって、エゼル夫妻の王都追放と立入禁止は解かれた。ただし政界へ復帰するには、臣籍降下が条件だった。 以前のように王太子どころか、一貴族からの再出発になる。それでも彼らは帰還を決めた。
――自分たちにできる最大限のことを。
あの冬の日に宣言した想いは、今なおエゼルとシャーロットの心に刻まれている。
「ご領主様と奥様がいなくなったら、寂しいよ」
「オーウェンとメリッサも行っちゃうんでしょ?」
フェイリムとティララの兄妹が、そんなことを言う。この2年で彼らはずいぶん大きくなった。特にフェイリムは、そろそろ子供から若者に変わっていく時期だ。
シャーロットは笑って、兄妹の頭を順に撫でた。フェイリムはもう背丈がシャーロットより高いけれど、照れくさそうに撫でさせてくれる。「また戻ってくるわ。シリト村は、私とエゼル様の第二の故郷だもの。私、王都で頑張ってくる。王都でしか出来ないことを、精一杯やるの」
「うん」
うなずいた彼らに、今度はエゼルが言う。
「だから、フェイリムとティララもここでしっかりやってくれ。お前たちや他の村人が農村で暮らしているからこそ、僕たちもよりよい未来を描けるんだ
街道の上を馬車がゴトゴトと音を立てて進んでいく。 舗装された石畳の道はとっくに終わって、今は踏み固められた粗末な土の道になっている。おかげでしばしば、ガタンと傾いたりわだちにはまりかけて止まったりする。 シャーロットは揺れる馬車の窓から、深い常緑樹の森とその奥にそびえる山脈を見て、深いため息をついた。 今は早春。未だ溶けない雪のかたまりがあちこちに残っている。「どうして侯爵令嬢たる私が、こんな片田舎の領地に押し込められないといけないのかしら。納得がいかないわ。 ねえ、聞いてらっしゃる? エゼル様」 シャーロットの隣に座る青年が、億劫そうに目を開ける。 彼は衣装こそ豪華だったが、まだ若いのに覇気のない表情が、奇妙にくたびれた雰囲気を醸し出していた。「聞いているよ。もう何度も聞いた。僕たちは王宮での立場争いに負けて、このシリト村の領主にさせられた。体のいい追放だ。 分かりきったことじゃないか……。諦めて運命を受け入れよう、シャル」 そう言ってまた目を閉じてしまった。 シャーロットは不満を込めてまた何度も文句を言ったが、もはやエゼルは聞こうともしない。 彼女は特大のため息を吐いて、ここに至るまでの経緯を思い出した―― シャーロットは名門貴族、デルウィン侯爵家の生まれで、今年18歳になる。 シャーロットはストロベリーブロンドに水色の目をした、とても可愛らしい少女。何一つ不自由することなく甘やかされて育った。 そんな彼女には、幼い頃に決められた婚約者がいる。 ソラリウム王国の第一王子、エゼルウルフ王太子である。年は同い年の18歳。 2人の仲は可も不可もなく。特別に絆が深いわけではないが、喧嘩をするほどでもない。 当人たちも周囲の大人たちも、彼らが未来の国王と王妃であると信じて疑っていなかった。 エゼルには弟王子がいた。名をデルバイスといい、兄よりも文武ともに優れた素質を示していた。 だが、安定期にあるソラリウム王国は、長子相続の慣例を破ってまで優秀な弟を取り立てようとはしなかった。 転機となったのは、デルバイスが自らの未来の妻としてセレアナという少女を連れてきたこと。 セレアナは莫大な魔力量を誇る「水の聖女」だった。 ソラリウム王国では、高い魔法の素質と自然の化身たる精霊と交信する能力を持つ女性を「聖女」と呼ぶ。 聖女は国
ソラリウム王国は島国である。島といってもかなりの広さを誇り、中央部付近には山脈が走っている。 エゼルとシャーロットの領地とされたシリト村は、島の北西部、山脈のふもとにある辺鄙な場所だった。 山脈に抱かれるような場所にある村は、畑に適した平地があまりない。 また、奥深い森がすぐそばまで迫っているために、村は狭い耕作地でほそぼそと生計を立てていた。 北の地にあるため森は背の高い常緑樹が多く、昼なお暗い鬱蒼とした雰囲気になっていた。「何よ、これ! 私にこんな所に住めって言うの!?」『領主の館』に到着して、シャーロットは不満の叫びを上げた。エゼルも呆然としている。 そこはひどく古めいた建物だった。2階建てで、大きさだけならば貴族の邸宅と言えなくもない。 ただしひと目見て分かるほどに荒れ果てていた。 石造りの壁はところどころが崩れ、枯れた雑草が顔を覗かせている。放置しておけば今年も元気に芽を出すだろう。 古臭いテラコッタの瓦葺きの屋根は、遠目に見ても破れ目があった。 庭の手入れも一切されていない。まさに荒屋である。 わがままお嬢様のシャーロットでなくとも、逃げ出したくなる有様だった。「シリト村にようこそ。王子ご夫妻様」 あばら屋、もとい領主の館のまえに2人の人影が立っている。 年配の男性が一歩前に出て、あまり丁寧とは言えない礼をした。「私はオーウェン。王都より派遣され、執事の役を務める者です。こちらはメイドのメリッサ。 私ども2人と村人たちの手を借りて、ご夫妻のお世話をいたします」 オーウェンに示されたメリッサが、やはりやや雑なお辞儀をした。黒髪にくすんだ青い目をした、愛想のない娘だった。「執事にメイドがたった1人!? そんなので暮らしていけるわけないじゃない。衣装係は? 入浴の付き添いと美容係は? こんな幽霊屋敷でメイドが1人だなんて、どうするの!」 シャーロットは興奮して言い立てたが、オーウェンは涼しい顔で受け流した。「さてはて。雨露がしのげる家があり、多少の人手もある。これ以上、いったい何を望むと言うのです」「だから……!」「シャル、もういい、やめろ。僕は長旅で疲れた。早く休みたい」 エゼルがうんざりとした口調で言った。「では、こちらへ。ご夫妻の居室については、最低限の修繕を済ませておりますので」 馬車の御者から荷
やがて夕暮れ時が過ぎて夜になった。 薄暗い中で明かりの灯し方も分からず、シャーロットとエゼルがやきもきしていると、メリッサがやってきて部屋を明るくしてくれた。 メリッサが持ってきたのは、魔道具のライトだった。王都で流通しているものよりずいぶん古い型である。「お腹がすいたわ。晩餐はまだ?」「まだです。今作っています」 無礼な言い方だったが、もう文句を言う気力もなくしていたシャーロットは、黙ってうなずいた。 それからさらにしばらくして、ようやく夕食の準備ができたとオーウェンが告げに来た。「やっと食事……。こんなに腹を減らしたことはない」 エゼルがぼそっと言う。 今までは食事の時間はきちんと決まっていて、合間に菓子をつまむのもできた。空腹がこんなにままならないものだったとは知らなかった、と彼は思う。 そして、案内された食卓の質素さに愕然とした。「本日の献立は、麦粥。レンズ豆のスープ。きゅうりとキャベツの酢漬けでございます」「たったこれだけ? 家畜小屋の豚だって、もっとマシなものを食べてるわ」 シャーロットが震える声で言った。「これで全てです」 と、オーウェン。 しかも食事は素朴な木製の器に入っていた。スプーンやフォークも木製である。豪奢な陶器と銀の食器に慣れた2人は、気味が悪くてなかなか手が出ない。 それでも空腹に負けて、まずエゼルがスプーンを取った。「お味はいかがですかな?」「…………」 エゼルは無言で首を振った。空腹だから食べられるが、王宮の料理の味と比べ物になるはずがない。 ぐぅ~、とシャーロットの腹の虫が鳴る。 気位の高い彼女は赤面して、オーウェンとメリッサを睨んだ後に麦粥を口に運んだ。「何なの、この味! 薄くて食べた気がしないわ。おいしくない!」「では、もう下げますか?」 メリッサがさっさと食器を片付けようとしたので、シャーロットは焦った。ぺこぺこのお腹は「もっと食べたい」と主張していたが、貴族令嬢のプライドが素直にそう言うのを邪魔したのだ。 彼女は仕方なくやせ我慢をした。「ええ、もう下げなさい。食べられたものじゃないわ。料理人を呼んで、罰を与えなければ」「料理人はいません。作ったのはあたしです」「……え」 料理人がいない? 予想外の答えにあっけに取られているうちに、メリッサは食器を持って行ってしま
夜、眠る前になってシャーロットはトイレに行きたいと思った。 旅の最中は、衝立と簡易便器のようなものを用意して野外で済ませていた。シャーロットにとっては初めての体験で、非常に不快だった。 だからやっと我が家――と認めるのも嫌なくらいのボロ屋だが――に腰を落ち着けて、トイレくらいは普通に済ませられると思っていたのだが。「お手洗いはこちらです」 メリッサに案内された先は、臭い・暗い・汚い・怖いと四拍子揃った離れの小屋であった。 短い渡り廊下の先にぽつんと建つ、みすぼらしい小屋である。 シャーロットはショックを受けてよろけた。ストロベリーブロンドの髪がふるふると震えている。「何よこれ……どうしてトイレがこんなに臭いの……」「汲取式ですから。この家が長く放置されていたせいで、排泄物を溜める穴が半端に埋まってしまっていますね」「水洗じゃないの!?」「当たり前でしょう。この村は水道が通っていません」「そ、そんな……」 ソラリウム王国はインフラ建築に長けた国で、王都はもちろん地方都市でも上下水道が整備されていた。 けれどドがつく田舎のシリト村はさすがに例外である。「あたし、もう帰りますね」 案内が終わったメリッサは、さっさと母屋に戻ろうとする。シャーロットは必死で引き止めた。「嫌よ! こんな怖い所に置いて行かないで!」「はぁ。じゃあ、待ってますからさっさと済ませて下さい」「うぅぅ」 トイレ小屋に入る。とても臭い。備え付けの魔道ランプは古臭くて、頼りない明かりを放っている。 やっとのことでトイレを終わらせたシャーロットは、ほとんど半泣きになっていた。 真夜中。エゼルと同じベッドに入ったシャーロットは、夫からなるべく身を離すように端に寝ていた。 王都を追放される直前に無理やり結婚させられたけれど、夫婦はまだ初夜を済ませていない。 王都を追い出されるまではそれどころではなかった。 シリト村に向かう道中は時間だけはあったが、2人ともそんな気になれなかった。 今もまた、先行きが見えない絶望感で互いに目をそらしてばかりいる。(これからどうなるのかしら) シャーロットはみじめな空腹感に苛まれながら考えた。 王都とその近郊や、整えられた別荘地しか知らなかった彼女にとって、この村と館の有様はカルチャーショックどころの騒ぎではなかった。(こ
翌朝、朝日のまぶしい光でシャーロットは目を覚ました。 少し距離を置いたベッドの端では、エゼルが背中を丸めて眠っている。 シャーロットは寝起きの喉の乾きを覚え、いつも通りベルを鳴らして使用人を呼ぼうとして――ベルもなければ来てくれるメイドもいないのだと思い出した。 不満をぶつぶつと愚痴の形で吐き出して、彼女は起き上がった。 着替えは、自分でやろうと決めた。どうせメリッサを呼んだところで、手を貸してくれないだろう。 トランクを開ける。衣装はクローゼットに吊るしていないおかげで、畳みしわが出来てしまっている。 シャーロットはイライラしながらドレスを取り出し。「どうやって着ればいいのかしら……」 完全に困ってしまった。華美で複雑な形のドレスは、いざ1人で着ようと思うとどこから袖を通していいかすら分からない。「エゼル様、エゼル様! 起きて下さいまし。着替えたいのです。お手をお貸し下さい」「起きたくない」 すぐに返事があったところを見ると、眠っていたわけではないようだ。いつも覇気のない彼だが、今日は特に平坦な声だった。「どうせ僕が手伝ったところで、役に立たない。寝かせておいてくれ。そうすれば、現実を見ずに済む……」 シャーロットは呆れた。彼女とてこのとんでもない環境の中で生き抜いて、王都に返り咲く決意をしたというのに。「そうですか。では勝手になさって。私は朝食をいただいてきます」 そう言い放って、彼女はネクリジェにガウンを羽織った姿のままで部屋を出た。 よく晴れた日のようで、屋根の破れ目から青空が見える。 水たまりも昨日より減っていたせいで、スリッパ履きの足でも転ばずに食堂までたどり着けた。 昨夜は食べそこねてしまったせいで、シャーロットのお腹は限界までぺこぺこになっていた。「おはようございます、奥様。ちょうど朝食が出来上がったところです」 食堂の隣の厨房から、メリッサが顔を出す。 シャーロットは無言で席についた。今までは使用人が椅子を引いてくれたのに、誰もいないので、仕方なく自分でやった。「オーウェンは?」 メリッサが配膳をしに来たので、シャーロットはぶっきらぼうに聞いた。「庭掃除をしています。今の季節は、雪の下に埋もれていた枯れ葉や埃が目立ちますから」「そんなもの、庭師に――」 言いかけて、シャーロットは顔をしかめた。
寝室ではエゼルがまだベッドに入ったままだった。 シャーロットは彼を無視して、先程着るのを諦めたドレスを広げた。「どう、この美しいデザイン! 銀糸の刺繍も見事でしょう。こんな田舎じゃあ一生お目にかかれない、有名デザイナーの手による一級品よ!」 ドレスは青紫を基調として、咲き誇る花を思わせる華麗なものだった。 シャーロットのストロベリーブロンドの髪、空色の瞳によく似合う出来である。 このドレスは彼女のお気に入りだった。だから色んなものを諦めて王都を出た時も、これだけはと思って持ち出したのだ。「確かに素敵なお衣装です」 メリッサがうなずいたので、シャーロットは得意な気持ちになる。「でも、これを着てどこへ行くつもりですか? こんなに裾が長いと、家の中を歩くだけで汚れます。まして土の道は歩けません」「わ、私は土の道など歩かないわ!」「領主の妻なのに? 領民と顔を合わせ、言葉を交わさないのですか」「私が行く必要はないわ! 呼びつければいいのよ」 シャーロットは顔を真赤にしながら叫んだ。ほとんど唯一、手元に残ったお気に入りのドレスを着る機会すらないなんて、みじめすぎる。「それでは領民たちは心を開きませんよ。ただでさえ、ご夫妻は評判が良くないのに」「な……」 歯に衣着せぬとはこのことだろう。メリッサの直球の言葉にシャーロットは絶句した。「無礼者!! 出ていきなさい、今すぐに!」「仰せのとおりに」 シャーロットがドアを指差すと、メリッサはさっさと行ってしまった。「ありえない……! 謝罪の一言もなし? ここに鞭があれば、何度でも打ってやるのに!」 怒りがおさまらず、部屋の中をうろうろと歩く。 エゼルはこの騒ぎにも耳を塞いで、布団をかぶっている。 しばらくして気が落ち着いてくると、また不安が襲ってきた。 シャーロット1人ではドレスを着ることすら出来ない。ネグリジェでは出かけるのも不可能だ。 それではこの薄汚い部屋で
雪解け水でぬかるんだ道を歩きながら、シャーロットは今後の身の振り方を考えていた。 王都に戻って水の聖女セレアナに復讐をするには、どうしたらいいのか。 無能と悪女のレッテルを貼られて追放されたのだから、それらの悪評と反対のことをすればいいのでは? この考えはなかなか名案に思えた。 無能の反対は有能。悪女の反対は聖女だろうか?「聖女は頭にくるから、やめましょう」 シャーロットは小さく呟いた。 このソラリウム王国において『聖女』とは、精霊と交信する能力を持った魔力の素質が高い女性を指す。 精霊交信能力は、魔力以上に生まれ持った素質がものを言う。ないものねだりをしても仕方ないと、こればかりはシャーロットも諦めていた。 では、悪の反対で善。慈悲深く心清らかな人といったところか。 なんだ、簡単じゃないの、とシャーロットは思った。 今のままでも私は十分に善人。 それならば、有能の方に力を入れよう。 有能を示すにはどうしたらいいか。派手に活躍して、誰もが認めざるを得ない功績を上げるのが一番だろうが……。 そこまで考えて、一つうなずいた。 この田舎の土地でたっぷり税を取り立てて、王都へ戻る資金にしよう。 まずは畑の様子を見に行こう。どのくらい税が取れるのか、確認しなければ。 少しばかりの距離を歩いて、シリト村の集落に着いた。 畑は日当たりが良い場所にある。建物の影や森の中ではまだあった残雪も、ここらではすっかり消えていた。 村人たちは畑に出て、土作りや耕作を始めている。 シャーロットは狭いあぜ道に入るのが嫌で、畑の手前で足を止めた。「皆のもの、ごきげんよう。私はシャーロット・フェリクス・ソラリウム。この土地の領主、エゼルウルフ様の妻ですわ」 正直に言うと彼女はエゼルと結婚した実感はまだないし、彼のことを見限り始めている。 けれども他に言いようがなかったので、シャーロットは無難な名のりを上げた。 彼女の予想では、美しい貴族のレディの姿に感服した下賤の民たちは、涙を流しながら平伏するはずだった。 しかし農民たちはろくに作業の手を止めず、形ばかりの礼を返してくるのみである。「メリッサ。あの無礼者たちは何なの? 私が王都にいた頃であれば、絶対に許さず鞭打ちをしたわ」
シャーロットはがっかりしながら、村人たちの農作業風景を見るとはなしに眺める。 皆が泥にまみれた服を着て、まだ肌寒い春の季節だと言うのに汗をかきながらクワを振るっている。遠くの方では牛が一匹だけいて、農具を引いて畑を耕していた。 シャーロットは落ち込みから回復してくると、だんだんと腹が立ってきた。 そんなに広い畑でもないのに、手作業でのろのろとやっているのが悪いのだ。だから収穫高が低くて、ろくに税も取れない。「お前たち、どきなさい」 シャーロットは畑に向かって踏み出した。柔らかい土に靴が汚れて顔をしかめる。「奥様。農民たちの邪魔をしては……」「邪魔じゃないわ! この私が、高貴なる令嬢の私が手本を見せてあげるのよ!」 言いながら、彼女は手のひらを地に押し付けた。しゃがみ込む際にスカートを押さえる動作が、この場所に不似合いなほど優雅だった。『母なる大地の土くれよ。御身をうねる波として、地表に波紋を描きたまえ!』 特殊な言語で紡がれた呪文が終わると同時に、シャーロットが触れた地面が震えた。それから水面に波が起こるように、一直線に土がうねっては掘り返されていく。 土の波はそれなりの距離を進んで、やがて止まった。 農民たちが息を呑んでいる。「こういう時こそ魔法を使いなさい。初級の土の魔法でも、十分に効果を発揮するわ」 手指についた泥を払い落としながら、シャーロットが言う。土の魔法は彼女が最も得意とする属性だった。 そして、驚きの目で彼女を見つける村人たちに気づいた。「……何よ?」「奥様。この者たちは魔法を使えません。平民で魔力の素質を持つ者はまれですから」 メリッサに言われて、シャーロットは目をぱちくりとさせた。 貴族はほとんどが魔力持ちである。魔法が使えない人間という存在に、彼女はピンと来なかった。 農民たちが口々に驚きの声を交わしている。「おい、見たか。あれが魔法だってよ」「すげえなぁ。あっちゅうまにこんなに耕せたぞ」「魔法、かっこ
シャーロットがシリト村にやってきてから、3度目の春を迎えようとしている。 1度目の春は、王都を追放された失意で八つ当たりをしてばかりいた。 2度目の春は、村人たちと協力しながら農業と農村の暮らしへの学びを深めた。彼らのありようをより深く知り、最適な作物を共に考え、暮らしに足りないものを観察して補うように行動した。農閑期の学校開催などもその1つである。 そして今。3度目の春、エゼルとシャーロットはシリト村を旅立とうとしていた。 2人とも悩んだ末の決断だった。けれども農民たちのより豊かな生活、より幸せな暮らしを幅広く実現するために、王都へ戻って政治に携わる決意をしたのだ。 シリト村を始めとした不正な税の搾取を告発したことで、エゼルの名声は多少の挽回をしていた。かつての「無能王太子」から、少しは見る目のある若者に変わった。 それをもって、エゼル夫妻の王都追放と立入禁止は解かれた。ただし政界へ復帰するには、臣籍降下が条件だった。 以前のように王太子どころか、一貴族からの再出発になる。 それでも彼らは帰還を決めた。 ――自分たちにできる最大限のことを。 あの冬の日に宣言した想いは、今なおエゼルとシャーロットの心に刻まれている。「ご領主様と奥様がいなくなったら、寂しいよ」「オーウェンとメリッサも行っちゃうんでしょ?」 フェイリムとティララの兄妹が、そんなことを言う。この2年で彼らはずいぶん大きくなった。特にフェイリムは、そろそろ子供から若者に変わっていく時期だ。 シャーロットは笑って、兄妹の頭を順に撫でた。フェイリムはもう背丈がシャーロットより高いけれど、照れくさそうに撫でさせてくれる。「また戻ってくるわ。シリト村は、私とエゼル様の第二の故郷だもの。私、王都で頑張ってくる。王都でしか出来ないことを、精一杯やるの」「うん」 うなずいた彼らに、今度はエゼルが言う。「だから、フェイリムとティララもここでしっかりやってくれ。お前たちや他の村人が農村で暮らしているからこそ、僕たちもよりよい未来を描けるんだ
荒れ狂う雪の中に一点、雪よりも白い純白の光が灯った。 それはみるみるうちに大きくなって、やがて一角獣の形を取った。 彼は蹄で空を駆ける。分厚い雪雲を切り裂いて。 彼が足を一蹴りする度に、雪崩が割れた。 彼がたてがみを振る度に、雪が消えた。 雪崩に飲まれて流されかけた人らを、彼はまとめて掬い上げ背に乗せる。 高くいなないて地を蹴れば、雪崩は完全に勢いを失った。 ユニコーンは一度空高く舞い上がると、森に向かって急降下をした。 降り立つのは、あの泉のほとり。 けれど泉に水はなく、枯れて底を晒している。「助かった……の、か……?」 エゼルが呆然として言った。 その声を聞いたユニコーンは、ぶるっと体を震わせて人々をふるい落とした。「ユニコーン様が、本当にいらっしゃったなんて」 村長が地面に伏して拝んでいる。オーウェンとメリッサはまだ自失から戻っていない。 シャーロットはティララを抱きしめながら、ユニコーンに向き直った。「ありがとう、ユニコーン。また助けてもらって……!?」 言葉の途中で絶句した。 久方ぶりに見た純白の獣は、その象徴である一角を失っていたのである。「あなた、どうして?」 するとユニコーンだった獣は、ふんっと鼻を鳴らした。『そりゃあそうだろう。乙女ではないもののために、あんなに力を使えば、魔力がなくなって当然さ』「そんな。守り神であるあなたから、力を奪ってしまったというの?」 守り手を失ったシリト村は、これからどうなってしまうのだろう。 信仰の柱をなくしてしまえば、この村は立ち行かなくなるのではないか。 そんな心配がシャーロットの心に生まれた。 そんな彼女を見つめながら、ユニコーンが言う。『僕は長らく村を見守ってきた。でも、シャーロットが来てから少し考えを変えたんだ。精霊や神様が人
山の崖下にティララはいた。崖の途中にへばりつくように木が生えていて、彼女はその枝に引っかかるような格好で泣いている。 木の枝には、冬にふさわしくない鮮やかな緑の葉。不思議なまでに瑞々しい葉。ティララはそれを握りしめて、離すまいとしている。「ティララ!」 村長が叫ぶと、幼子は彼らに気づいた。「おじいちゃん!」「今、助けてやるからな。動くなよ」 村長が崖を降りようとするが、足元の雪がずるりと崩れた。オーウェンが慌てて引き上げる。「かなり足場が脆い。なるべく体重が軽い者が行ったほうがいいだろう」 エゼルが言って、シャーロットがうなずいた。「それじゃあ私ね。一番背丈が小さくて、痩せているもの」「奥様、無茶です」「いいえ、私が一番ちょうどいいの」 メリッサは女性としては上背があり、護衛という職業柄、かなり体を鍛えている。重量という意味ではシャーロットが最適だった。 皆で協力して、シャーロットの胴体にロープを結わえる。ロープの端は残った者たちがしっかりと持った。 シャーロットは慎重に崖に近づいた。村長ならば崩れた雪の足場も、彼女の体重であれば支えてくれた。 凍って滑る崖を少しずつ降りて行く。 時間はかかったが、彼女はついにティララの元へたどり着いた。「ティララ! 怪我はない?」「だいじょうぶ。でも、怖かったよお」 泣きじゃくっていたティララの頬は、涙の跡が凍ってしまっている。シャーロットは頬にそっと手を当ててから、小さい体を抱きしめた。「こんなに無茶をして、皆心配したのよ」「ごめんなさい……。でも、でも、ユニコーン様の薬草を見つけたの!」 ティララの手には輝くような緑の葉がある。この冬の寒さの中で、ひときわ輝くようなグリーンだった。本当に何かの効能がある薬草なのかもしれない。「じゃあそれをしっかり持って。ロープで引き上げてもらいますからね」「うん」 シャーロットは自
彼らは手早く話し合って、森をこのまま探す組と山へ捜索の手を伸ばす組を決めた。 フェイリムと村人は森を、村長とシャーロット、エゼル、使用人2人は山を探すことになる。「捜索者が遭難してはいけません。安全第一でお願いします」 オーウェンが念を押した。皆でうなずいて、散って行く。「ティララみたいな小さい子が、そんなに距離を進んでいると思えないが」 エゼルが言って、メリッサが首を振った。「そうとも言えません。体重が軽ければ、大人なら雪に沈んでしまう場所でも、歩いて行けるケースがありますから」 山へ近づくと雪がだんだんと激しさを増してくる。「これはいけない。エゼル様、シャーロット様、お2人はお戻り下さい」「嫌よ!」 オーウェンの言葉に、シャーロットは強く言い返した。「ティララはきっと、1人で寒い思いをしているわ。大人の私が見捨ててどうするの」「しかし、この雪です。ご領主夫妻に万が一のことがあったら……」 村長の顔には苦悩が見えた。「村長、薬草が生えているという言い伝えの場所に心当たりはないか?」「どうでしょうか。おとぎ話ですので、具体的にどことは……あ」 エゼルの言葉に何かを思いついた村長が、目を上げる。「あの子の母親が言い聞かせていたのを聞いたことがあります。西の崖で、晴れた日には我が家からよく見える場所」「それは、どちらの方角だ?」「あちらです!」 村長が指をさす。「よし。じゃあそちらを重点的に探そう。皆、気をつけて、くれぐれも無理をせずに。雪が激しくなったら、戻るのも決断しなければならない」 エゼルが言って、シャーロットも不承不承、うなずいた。「ティララ、待っていなさい。必ず私が見つけて、家に帰してあげるから」 シャーロットの呟きは、山から吹き下ろす雪風にかき消されて消えていった。
秋祭りが終わってから、シャーロットはユニコーンに会えなくなってしまった。 何度森へ出かけても、彼の姿は見えない。あの青い泉にたどり着くことさえできなくなってしまった。「お礼を言いたかったのに」 落ち葉が舞い散る森の小径で、彼女は残念そうに呟いた。 ユニコーンはシャーロットを助けてくれた。そのおかげでとうとう、エゼルと身も心も結ばれて夫婦になれたのだ。「まったく、『乙女の守り手』なんて面倒よね。お礼も言えないんですもの! ねえユニコーン、聞いてる? 私、あなたのおかげで幸せになれたわ。いつかきっと、また会えるわよね?」 答えはない。木々の梢を渡っていく風が、さわさわと笑い声のような声を立てるばかり。 シャーロットはお土産に持ってきた葉野菜を置いて、その場を去った。 季節は冬に近づいていく。 農民たちは越冬の支度の最中だ。貴重な豚の命をもらってベーコンを作り、野菜を酢漬けにして樽に詰める。森に薪を調達しに行って、軒先でよく干しておく。用水路の水門を閉めて来年に備える。 冬は憂鬱な季節だと、彼らは口を揃えて言った。「けれど今年は、小麦の税が3割でしたから。今まではずっと楽です。餓死者は出さずに済むでしょう」 村長が言う。当たり前の口調で口に出された「餓死者」という言葉に、エゼルとシャーロットは胸が痛んだ。 やがて初冬になり、雪が降り始めた。 シリト村は王国でも北に位置する。しかも山が近いために、一足早く冬が深まるのだ。 雪が積もってしまえば、シリト村はほとんど陸の孤島となってしまう。きれいな雪に喜ぶのは子供たちと犬だけで、大人たちはうんざりとした顔で分厚い雪雲を眺めていた。 その知らせは冬も後半に入ったある日、雪のちらつく朝にもたらされた。「領主様、奥様!」 領主の館の扉を叩く者がいた。フェイリムだ。 朝食を終えたシャーロットが玄関を開けると、フェイリムは泣きそうな顔
3日目、祭りの最後の日。 この日は夜に、広場の焚き火に藁づくりのユニコーンをくべて燃やす。そして今年の感謝と来年の安寧を祈るのだ。 捧げ物に囲まれている藁のユニコーンを、男たちが担ぎ上げた。村の中を練り歩く。 子供たちがきゃあきゃあと歓声を上げながらついていった。もちろん、フェイリムとティララもその中にいる。 その間に広場の火が灯された。 やがて到着した藁のユニコーンが、慎重に炎の中に降ろされていく。 藁は少しずつ燃えて、ある時一気に燃え上がった。ぱちぱちと火の粉が飛び、村人から祈りの声が上がった。「ユニコーン様、今年もありがとうございました。無事に収穫祭が終わります」「来年もどうか、見守っていて下さい」 若者たちが何人か、この祭りの間にすっかり心を通わせたパートナーと手をつなぎ、炎の前で祈っている。 仲睦まじい様子に、シャーロットの心が痛んだ。 ――私もエゼル様と一緒に、この炎を見たかった。 仕方ないと思っても、泣きたい気持ちになった。 隣に立つメリッサが、そっと背中を撫でてくれる。シャーロットは首を振って強がった。「平気よ。エゼル様がいなくたって、私はちゃんと秋祭りを最後まで見守るわ。だって、後を頼まれたんですもの!」「頼りになるなあ、シャーロットは」 不意に、一番聞きたかった人の声がした。 燃え盛る炎を背に、シャーロットは振り返る。地面に揺らぐ影の向こう、会いたかった人が立っている。「エゼル様!」 藁のユニコーンの炎が一層燃え上がった。シャーロットは短い距離を飛ぶように駆けて、エゼルに抱きついた。 戸惑うエゼルからは、旅の匂いがする。遠い場所の空気と、埃っぽさと、汗の匂い。「どうして? お帰りにはまだ、時間がかかると手紙にあったのに」「弟が、デルバイスが話を取り持ってくれてね。それで思ったよりも早く済んだ。秋祭りを思い出して、せめて最後の日だけでもシャーロットと一緒に祭りに出たくて、急いで戻ってきた」「そうでしたの……」
秋祭りは3日に渡って続く。 2日目、シャーロットは捧げ物をお土産に持ってユニコーンの所に行った。 森の中は秋の空気に満ちていて、広葉樹の葉は黄色く色づいている。 落ち葉をさくさくと踏んで森を進めば、やがて泉が見えてきた。 泉だけは夏の頃と変わらず、不思議な青さで佇んでいる。そのほとりにユニコーンが立っていた。相変わらずの純白の毛皮は汚れ1つない。『やあ、シャーロット。お土産を持ってきてくれたのかい。嬉しいな』「村の秋祭りのものよ。あなた、見たことある? 大きい藁であなたの形を作るの」『ずいぶん昔に見たことがあるよ。僕はあんなに太っちょではないと思うんだけどなあ』 シャーロットは吹き出した。確かに、藁の馬は丸っこい体型をしている。 中に木材の芯を入れて藁を巻く作りなので、仕方がない。 ユニコーンは玉ねぎをしゃりしゃりとかじりながら言った。『うん、美味しい。今年の作物も、村人たちの思いがよくこもっている』「思い?」『僕は本質が魔力の存在だからね。人間が作った野菜を食べると、作った人の心を感じるんだ。シリト村の人々は心がきれいで、いつも癒やされる』「そうね……」 シャーロットはうなずく。 王都を追い出されて、この村にやって来た。突然現れた「領主夫妻」を、村人たちは受け入れてくれた。「私、農民は愚かで頑固で、よそものを嫌うのだと思っていたわ」『そういう面はあるよ。シリト村の人々は、成り立ちのせいもあって、他の村よりも優しい人が多いが。それでも、人間は狭い中でつながるものだからね。その輪の外から来た相手は、敵視しがちだ。 シャーロットがすんなり受け入れられたのは、きみが頑張ったせいもあるよ』「そう……かしら」『そうだよ。この玉ねぎも、かぼちゃも、人参も。シャーロットの思いを感じるもの。一生懸命、村人と一緒に畑の土と向き合った結果さ』「うん、ありがとう。そう言ってもらうと、勇気が出るわ」 言って、彼女は立ち上がった。収穫祭の最中に、あま
翌日、エゼルとオーウェンは役人たちを連れて村を旅立っていった。 大人数なので馬車に乗り切れず、徒歩の旅である。 朝、いよいよ出発の時間になった時、エゼルはシャーロットの手を取って言った。「往復の道程だけなら10日程度だが、告発と処罰の手続きにどのくらい時間がかかるか、まだ読めない。都度手紙を出して状況を伝えるよ。メリッサと一緒に、この村を頼む」「分かりました。気をつけていってらっしゃいまし」 遠ざかっていく夫の背中を、シャーロットはずいぶん長いこと見送っていた。 税金の話が片付いたので、村では秋祭りの準備が進められていた。「祭りの日までに、ご領主様が帰ってくればいいのですが」 村長が心配そうに言う。「気にしなくていいのよ。秋祭りは村の一番の楽しみだと聞いたもの」 そうは言ったが、シャーロットもエゼルと一緒に祭りを見て回りたいと思っている。 けれど願いは叶わず、秋祭りの当日になってもエゼルは戻らなかった。 シリト村の秋祭りでは、大地の精霊としてユニコーンを祀る。 藁束で作った大きな馬――ユニコーンに見立てたもの――の周りに、様々な農作物やパンを捧げるのだ。 小麦の束に大きなカボチャ、玉ねぎ、りんごや梨。パンはこの日のために焼いた、馬の蹄の形のもの。 藁束のユニコーンがたくさんの捧げ物に囲まれているのを見て、シャーロットは本物のユニコーンにもお土産を持って遊びに行こうと思った。「この角のある馬はユニコーン様っていって、村の守り神なんだよ!」 ティララが得意げに教えてくれる。シャーロットはくすくすと笑った。「ねえ、ティララはユニコーンを見たことがある?」「ないよ! ユニコーン様は森の奥に住んでいて、めったに人の前には出てこないんだって」「へえ、そうなのね」 ユニコーンの実在は、あまり口外しないようにと本人(本馬?)から言われ
領主の館に戻り、エゼル、シャーロット、それからオーウェンとメリッサは今後の対応を話し合った。「僕とオーウェンで彼らを王都まで連れて行く。ただ、僕は王都へ入るのを禁じられた身だ。近くの宿場町で留まって、あとはオーウェンに任せる形になる」 オーウェンはうなずいた。「お任せあれ。途中で王宮に連絡を入れて、護送用の人員を回してもらいましょう」「あぁ、お前はやっぱり……」 エゼルは苦笑した。シャーロットが首をかしげる。「何ですの?」「オーウェンは王家から派遣されたんだよ。そうだな、母上あたりの差し金じゃないか?」「御名答です」 オーウェンは澄ました顔でいる。「エゼル様とシャーロット様のお世話と監視を兼ねまして、メリッサとともに任につきました」「監視ですって!?」 シャーロットが声を荒げるが、オーウェンとメリッサは受け流した。「奥様、それはそうでしょう。あなたたちは王都を追放された、半ば罪人だったのですから」 と、メリッサ。オーウェンが続ける。「まあ監視というよりは、お2人がヤケを起こして自殺でもしないように、見守る意味合いが強かったのですよ。シャーロット様は思いがけない速度で立ち直りましたが、エゼル様は長らく塞いでおりましたし」「……あの時は心配をかけた」 エゼルがしょんぼりしている。「あたしは本職が護衛なんです。不慣れなメイドの仕事は大変でした」「あ~、だからお料理が下手なのね、メリッサは」 シャーロットがぽんと手を叩いて、メリッサは不満そうに眉を寄せた。「種明かしをしたということは、僕たちを信用してくれたのかい?」 エゼルが言うと、2人の使用人はそれぞれにうなずいた。「ここ何ヶ月かのお2人のご様子、それに今日の一連の騒動。このオーウェン、感服いたしました。以前のお2人であれば、考えられないほどです」「……